選民思想の問題点©洪 経世

「思想の自由」は絶対正義ですが、しかし選民思想には重大な問題があります。選民思想を信じると必ず独我論に行きつく事です。独我論は精神を破壊する恐ろしい思想です。一度信じたら自力で抜け出す事は不可能です。例えば、1億人の人口が居て、その中の1%の人を「正義の基準」として選民するには、選民の条件を決める必要があります。その条件は「血統」であったり「有力者とのコネ」であったり、俳句が上手いとか書道が上手いとか、まあ適当に、自分がその1%に入るような条件を、なんとでも決められるんですが、とにかくその選民を一度やって、その1%の選民の中に自分が入ると、自分が特別な人になったような、濃すぎる幸福感に包まれます。しかしその幸福感は長続きしないので、その幸福感が消えた時、その人は必ず、もう一度その幸福感を得ようとします。またその幸福感を得るには、1億人の中から選ばれた1%の人口の、更に1%を選民して、その1%の中に自分が入る必要があります。これが無限連鎖して独我論に行きつく訳です。1億人の1%は100万人。100万人の1%は1万人。1万人の1%は100人。100人の1%は1人。これ以上の選民は不可能です。それが独我論で、独我論は究極の選民思想と言えます。しかし独我論を信じると、恐怖を感じるほどの虚無感に襲われ続けます。その虚無感が精神を破壊します。最後は自分が居るのか居ないのかさえ分からなくなるくらい精神が破壊されます。しかし独我論を否定すれば選民思想を否定する事になり、選民思想を否定すれば、あの「濃すぎる幸福感」を得る事ができなくなる。だから独我論に一度陥ると自力では抜け出せなくなる訳です。その独我論の生みの親が選民思想です。思想の自由は絶対正義とは言っても、しかし人の気を狂わせるのが確実な思想まで正義と認める必要は、ないと思いますけどね。©洪 経世