〈短編神話小説〉俺は神の徴用工 ©洪 経世

「〈俺は神の徴用工だと言う男。以下、徴〉この世に生まれるにはな、あの世で手続きをする必要がある」「〈聞き手1。以下、聞1〉あの世にも役所があるのか?」「〈徴〉役所は無いが手続きはある。続けていいか?」「〈聞1、2、3〉うん」「〈徴〉まず神様に生存権取得の申請をする。すると神様が審査して、結果を言ってくる。そこでOKが出ないとこの世での生存権は手に入らない」「〈聞2〉神様が一人で決めるのか?」「〈徴〉それは俺もよく分からんが、最終決定権は神にあるはずだ。そりゃそうだろ?この世は神様のもんだから?」「〈聞1、2、3〉そうだ」「〈徴〉生存権は神様がサイコロを転がして偶然に決まるんじゃない。神様が選んで決めてる。君らが生きているのもそういう事だし、俺が生きてる事もそういう事なんだが、俺の場合は特例だ。俺は以前に何度か人間の生存権取得の申請をした事があるが全部ダメだった。性格が人間としては不適格らしい。昆虫なら、と言うか昆虫から単細胞生物までの間の生物ならOKだ。俺は昆虫の経験はある」「〈聞2〉昆虫ってどんな感じだ?」「〈徴〉俺はイナゴだったが、怒ってるか怒ってないか、そのどっちかだ。それ以外の感情は無い」「〈聞3〉痛さも感じないのか?」「〈徴〉いや感じる。感じるが人間のようにくどくはない。昆虫は悲しみも恐怖も感じないからな。そんな事より俺は昆虫の経験はあるが人間の経験はなかったわけだ。理由は神様が俺に、人間の生存権を認めてくれなかったからだ。それが今回はな、神様の方から俺に言ってきたんだよ、順番待ち無しで人間の生存権をあ・げ・る♡って」「〈聞1〉♡マークが付くと言う事は、神様は女か?」「〈徴〉うん。それで俺はな、嬉しくてな、ほいほい生存権をもらって生まれてきたわけだ。でもな、7歳くらいになって、なんで神様が俺に特例で人間の生存権を、人間って巨大生物の中では人気アトラクションだからな、その生存権を俺に与えたのか、理由が分かったんだ。酷いもんだよ、とても神がやる事とは思えなかった。俺を徴用工として生まれさせたんだ。その仕事と言うのが、全く希望が持てない、可能性の無い問題の答えを見つける事だった。俺は断ってあの世に帰ろうとしたら、とても神がやる事とは思えないような事をやって俺を引き留めたんだな神様は」「〈聞2〉どんな事だ?」「〈徴〉まあ、人質だな。それを使って俺が断れないようにしたわけだ。俺はあの時は神様が悪魔に思えたね」「〈聞3〉それでその徴用工の仕事は上手く行ったのか?」「〈徴〉まあな。今まで神様は大スランプだったが、これからは違うはずだ」©洪 経世